【TRIGGER】 ACT/18
「・・・アルと二人きりにしてもらっていい?」
突然の重い二択に熟考能力を止められて、俺は何事も深く考えられなくなっていた。ふと目に入ったアルフォンスの姿を捉えると、俺は何となくロイにそうお願いした。―――それが、この混乱した頭をどうにかしてくれる最後の手段のように思えたからだ。
「構わないよ。―――・・・ハボック。我々は女将さんに事情を説明しがてら、店の入口に近い部屋をいただこう」
決意が固まったら来るといい、と言い残してロイとハボックさんは去っていった。部屋を隔てる引き戸が閉められたことを確認してから、アルフォンスが先に口を開いた。
「・・・大体の話はハボックさんに聞いたよ。今のホークアイって人の話で話の流れはわかったけど」
それは一から話さなくていい、というある意味牽制のような台詞だった。また、それを説明するのも憚られるくらい時間がないことを暗に示しているようにも取れた。
「まぁ要するに、穏便な方法か手荒な方法どちらですか?って聞いてるようなもんだよね・・・どちらにせよ、クセルクセスはいま危機に晒されているのさ!どちらの選択肢を選んだって、壊滅の危険性は拭いきれないってことだよ!」
アルフォンスの言うことは何一つ間違っていない。そしてアメストリス首領――ロイの父親――が俺が1人で答えを出すことを要求した理由もわかっている。
要するに、これは俺とロイの問題なのだ。俺たちが出会ってしまったがために・・・敵対関係にあると知りながら相手を失いたくないと思ってしまったがために、自分が後を継ぐマフィアさえも危機に晒している。
自分一人の個人的な感情で下した判断が、これほどまでグループ全体に影響するのだと改めて感じさせられた。―――結局、俺もロイも試されているのだ。次期首領に足る器なのかを。
「兄さんは、どうしたいの?」
アルフォンスが単刀直入に聞いてくる。俺はいま自分の頭に浮かぶ言葉を並べた。
「俺は・・・クセルクセスの人間だ。第一にクセルクセスのことを考える。・・・でも、ロイを助けたい・・・!」
これは矛盾した判断だ。でもそれが正しくないとは限らないと思う。選べる答えが必ずしも一つじゃないのなら、納得出来ないけど選んで当然の定石より、少しでも満足のいく“俺流”を貫きたかった。
「・・・兄さんって、大切なものを捨てられないよね。子供のころからそう」
アルフォンスは最初多めに息を吐きながら、半ば諦めの表情で答えた。どうやら反対するわけではないらしく、俺は安堵したが、アルフォンスが次に漏らした言葉はとんでもないものだった。
「好きなんだ、ロイさんが」
「バッ・・・!!なんで俺が!!」
「安心して、僕は理解ある方だから!」
「だーかーら!なんでそっちに行くんだって!!大体、俺は別に男が好きなわけじゃ・・・」
「でも、嫌いなわけじゃないでしょ?それが答えだよ」
アルフォンスの最後の一押しは、肯定以外有り得ない、という勢いがあった。その勢いに対し、俺は反論できるような言葉も根気もなかった。
俺が言葉を発するかどうか悩んでいると、アルフォンスは「・・・ともかく、」とすぐに話題を変えてくれた。これ以上追及されたら何かとんでもないことを言ってしまいそうな予感がしていただけに、俺はそっと胸を撫で下ろした。
「まずはこの諍いをなんとかしなくちゃね。クセルクセスとアメストリスの関係を緊迫状態にまで追い込んだ、共通の敵に制裁を与えるのを前提にね」
「―――そうだな」
意見がまとまったことで俺の頭はすっきりしていた。きっとアルフォンスが俺の言いたかったことを言わせてくれたからだと思う。自然と笑みがこぼれていたのか、「兄さんはそういう顔の方がいいよ。みんなきっと元気になる」とアルフォンスが微笑みながら言った。
―*―
俺たちが歩いて店の入口に向かうと、入口に一番近い部屋の戸が開けられた。―――ロイだ。
「答えは出たのか?」
「うん・・・本家に連れていって欲しい。―――俺だけでいい」
「え、兄さん!?」
俺の発言にアルフォンスは驚いたようだった。でも、この事態になったのが俺の所為だとわかっているだけに、これ以上アルフォンスを巻き込むのは良くないと判断を下さざるを得なかった。
「アル。お前はクセルクセスの本家に帰ってこの事態を説明しろ。手出し無用って言うのも忘れずに。もし明日の朝までに、俺から何の連絡もなかったら・・・交渉は決裂した、と考えろ」
「でも・・・!」
「俺は次期首領としてアメストリスとの交渉に臨む。お前は次期分家頭としての役目を果たせ」
有無を言わさない高圧的な物言いに、アルフォンスは渋々ながら「・・・わかった。でも、絶対に無理しないで」と言った。「わかってる」と返すと、アルフォンスの後ろに女将さんが立っていた。
「女将さん、ご迷惑をかけてすみませんでした」
「気にしないで。今日はお店が貸し切りだったし、割れたのはコップだけだもの」
女将さんは、皆さんに怪我がなくてよかった、と優しく笑った。その笑顔に思わず穏やかな気持ちになる。
するとロイの気配が動いたのに気付き、振り返るとロイが懐から封筒を取り出して女将さんに差し出した。
「グレイシア、場所を提供してくれてありがとう。これはほんの気持ちとして受け取ってくれ。・・・今度はフルコースを堪能しに来るとヒューズに言っておいてくれ」
「・・・わかったわ」
女将さんが受け取ったのを確認すると、ロイは俺とアルフォンスに向かって「・・・行こうか」と言った。
俺たちは女将さんに一礼するとそこにはハボックさんが車のドアを開けて待っていて、「乗って」と短く言った。俺はアルフォンスの目を見て頷き、アルフォンスが同じ仕草をしたのを確認してから車の後部座席へ乗り込んだ。
ロイが隣に乗ったところで車が動きだした。外を見ると、アルフォンスが少し不安そうな顔で立っていた。
大丈夫だ、と口だけ動かす。一瞬だったからアルフォンスが読めたかどうかはわからないが、俺は視線を前戻し座席の背もたれに全体重をかけた。
これからは1人でなんとかしなければいけない。気丈にならなくては、と思うけれど、手が微かに震えてる。手を組んで震えを隠しながら、横に座るロイに話し掛けた。
「なぁ、ロイ」
「何だ?」
「俺たち、元に戻れるよな?前みたいに、大学の・・・ロイの研究室で、喋れる日が来るよな?」
「―――当たり前だろう」その時見せたロイの表情は笑顔だった。でも、いつもの自信満々な雰囲気ではなく、どこか希望的観測のような匂いを漂わせていた。
ここに来て行き当たりばったりだったことを後悔しはじめました(笑)
さぁ、ガツガツ続き書きますよー☆
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